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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第205号 2008/5/31 『大手ソフト会社はゼネコン化している?』 ▼ まえがき:羅針盤21新規会員募集
▼ [ソフト業と建設業] (1)大手ソフト会社はゼネコン化している? ▼ [ソフト業と建設業] (2)大手ソフト会社の有価証券報告書 ▼
[ソフト業と建設業] (3)6年間で労務費や外注費の割合は変化なし ▼ [ソフト業と建設業] (4)90年代にゼネコン化 ▼
[ソフト業と建設業] (5)そもそもゼネコンになっていない ▼ [ソフト業と建設業] (6)有形財の外注との大きな相違点 ▼
[ソフト業と建設業] (7)会計アレルギーをお持ちの方に ▼
お勧めメルマガ:中国オフショア開発最前線
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まえがき:羅針盤21新規会員募集
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蒲生嘉達(がもうよしさと)です。
5月23日に、中堅ソフトウェア会社の団体「羅針盤21」 (
http://r21.arrow.jp/ )のプレスリリースをしました。 ( http://release.vfactory.jp/release/30255.html
参照)
内容は、羅針盤21の活動内容、次回セミナー案内、そして、 新規会員募集です。
次回セミナーは定員に達したので締め切りましたが、新規会員は募集 しています。興味をお持ちになられた方は、ご一報ください。
【問い合わせ先】羅針盤21事務局
riji@r21.arrow.jp
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[ソフト業と建設業] (1)大手ソフト会社はゼネコン化している?
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>
ソフトウェア会社は、エンジニアを社内に抱え込まなくなりつつある。 > 大手のベンダーを中心に、受注した案件について内製を行うための >
人材を確保せずに、下請けや海外に丸投げするような業態が、 > ここ数年で顕著になってきた。 >
ベンダーは営業と元請けに徹し、いわゆるゼネコンになりつつある > ・・・(中略)・・・ >
「ゼネコンといってもいいメーカー系では、外に出した方が利益が > いいという判断ですね」 > >
(久手堅憲之著「日本のソフトウェア産業がいつまでもダメな理由」より)
この文章を読んで、読者はどのように思われますか?
この文章の主張は次の3点に分解できます。
(A)大手ソフトウェア会社の外注比率が高まったのはここ数年の できごとである。 (B)大手ソフトウェア会社はゼネコンになりつつある。 (C)大手ソフトウェア会社は内製よりも外注の方が利益が出るから 外注に出している。
そして、私は3点とも間違えていると思います。
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[ソフト業と建設業] (2)大手ソフト会社の有価証券報告書
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まず「(A)大手ソフトウェア会社の外注比率が高まったのはここ数年の できごとである」が誤っていることは、上場している大手ソフトウェア 会社のI/R情報を見たらすぐに分かります。
例えば、http://www.cec-ltd.co.jp/ir/financial_report.html で、 株式会社シーイーシーの平成14年1月期から平成20年1月期までの 有価証券報告書を見ることができます。
【平成20年1月期の有価証券報告書】
http://www.cec-ltd.co.jp/ir/financial_report_pdf/20080418.pdf
P.70「ソフトウェア開発売上製造費用明細書」では 当期総製造費用が155億円、 そのなかで労務費は57億円(当期総製造費用の36.9%)、 外注費は86億円(55.9%)です。
P.71「情報システムサービス製造費用明細書」では 当期総製造費用が105億円、 そのなかで労務費は36億円(33.9%)、 外注費は63億円(59.3%)です。
【平成14年1月期の有価証券報告書】
http://www.cec-ltd.co.jp/ir/financial_report_pdf/1401_yuuka.pdf
P.56「製造費用明細書」では 当期総製造費用が162億円、 そのなかで労務費は61億円(37.6%)、 外注費は90億円(55.4%)です。
P.57「情報システムサービス売上原価明細書」では 当期総製造費用が72億円、 そのなかで労務費は17億円(23.9%)、 外注費は45億円(62.3%)です。
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[ソフト業と建設業] (3)6年間で労務費や外注費の割合は変化なし
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平成14年から平成20年までの6年間で、当期総製造費用に占める 労務費や外注費の割合がほとんど変わっていないことが分かります。
大手ソフトウェア会社の外注率が劇的に高まったのは「ここ数年」 ではなく、90年代です。
【関連記事】 第204号:ソフトウェア業はもともとは多重階層型でなかった [B]
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2008/05/post_2eb8.html [H]
http://www.kei-it.com/sailing/204-080510.html
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[ソフト業と建設業] (4)90年代にゼネコン化
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次に「(B)大手ソフトウェア会社はゼネコンになりつつある」という 主張が正しいかどうか見てみましょう。
これは二重の意味で間違えています。
【誤り1:ゼネコン化の時期】
外注比率が高まることをゼネコン化と言うのなら、上述のとおり、 それは既に90年代に完成しています。
政府調達市場を大手SIerが独占していることをもってゼネコン化と 言うのなら、それも90年代に完成しています。
(「政府調達制度とITシステム“ITゼネコン”を育てたのは誰か」
http://www.rieti.go.jp/jp/events/03020501/pdf/kishimoto_p.pdf
参照)
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[ソフト業と建設業] (5)そもそもゼネコンになっていない
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【誤り2:そもそもゼネコンになっていない】
第203号からしばしば引用している「建設外注費の本質とその真実性」 (
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001053850/
参照)には、 「上場ソフトウェア業8社では労務費が原価に占める割合は34%」という データが記されています。
これは2001年度のデータですが、上述の株式会社シーイーシーの数字を 見ても労務費が原価に占める割合は、やはり30数パーセントです。
2000年以降、この比率はほとんど変わっていないのでしょう。
一方、建設業で労務費が原価に占める割合は「建設外注費の本質と その真実性」によると5.6%です。 これは建設業一般の数字なので、ゼネコンに限ってみるとさらに 労務費の比率は下がり、限りなく0%に近づきます。
例:奥村組 平成18年度有価証券報告書P.67 http://www.okumuragumi.co.jp/ir/financial/pdf/yuukasyouken70.pdf
「大手ソフトウェア会社はゼネコンになりつつある」と言っている人が 考えている以上に、ゼネコンの外注化は極めて徹底しているのです。
また、「スーパーゼネコンは、建設工事の施工を営業の中核としながら、 社内に設計部門・エンジニアリング部門・研究開発部門を抱えており、 建設に関する幅広い技術力を有している」(Wikipedia
より)のであり、 もしも本当に大手ソフトウェア会社がゼネコン化しているなら、 彼らの技術力は向上しているはずなのです。
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[ソフト業と建設業] (6)有形財の外注との大きな相違点
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最後に、「(C)大手ソフトウェア会社は内製よりも外注の方が利益が 出るから外注に出している」は正しいでしょうか?
実はこれも怪しいのです。
長くなりすぎるので、ヒントだけ記します。
>
(ソフトウェア業においては)外注決定の要因として社内の > 人手不足や技術力不足が、金銭的な条件より優先されることが >
挙げられ、これは有形財の外注との大きな相違点といえる。 > >
(「建設外注費の本質とその真実性」より)
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[ソフト業と建設業] (7)会計アレルギーをお持ちの方に
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貸借対照表、損益計算書についてのごくごく初歩的な知識があれば、 インターネットで公開されている財務諸表を見てみようという気に なります。
会計アレルギーをお持ちの方は拙著「ソフト会社の心臓」を是非 お読みください。
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本日はソフトウェア業では2000年から外注費比率は変化していないという 話をしました。
但し、質的な変化はあります。 その一つがオフショアの進展です。
【関連記事】 第49号「中国オフショア開発」 [B]
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2004/11/post_dd89.html [H]
http://www.kei-it.com/sailing/49-041115.html
第79号「インドオフショアの影響」 [B]
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2005/06/post_a84f.html [H]
http://www.kei-it.com/sailing/79-050613.html
第157号「サービス業のオフショアリング」 [B]
http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2006/12/post_6f55.html [H]
http://www.kei-it.com/sailing/157-061211.html
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