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第101号  2005/11/14
  ▼  まえがき
  ▼  [ソフトウェア振替という麻薬] MSはWindowsを資産としていない
  ▼  [ソフトウェア振替という麻薬] 負債を手に入れ、資産だと思いこむ
  ▼  [ソフトウェア振替という麻薬] クリンジリーの言葉
  ▼  [ソフトウェア振替という麻薬] 米国ソフト会社が減価償却しない理由
  ▼  [ソフトウェア振替という麻薬] ソフトウェアの価値とは何か?
  ▼  [ソフトウェア振替という麻薬] 次回以降の予告


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  まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。


・第97号から「ソフトウェア振替という麻薬」シリーズを連載しています。

・「ソフトウェア振替という麻薬」シリーズを最初から読みたい方は、
 http://www.kei-it.com/sailing/back_furikae.html を参照してください。

・バックナンバーはブログでも公開しています。
 ブログ: http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/


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  [ソフトウェア振替という麻薬] MSはWindowsを資産としていない
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先週号では、倒産したベンチャー企業F社の貸借対照表を紹介しました。
その貸借対照表では、資産合計5,001万円の中でソフトウェアが
2,005万円を占めていました。

F社は極端な例ですが、日本のソフトウェア会社の多くは、自社開発
したパッケージ製品、ASPサービスのシステムを資産として扱っています。
例えば、第99号では、NRIが平成16年度の決算で173億円の
ソフトウェアを資産としていることを記しました。
( http://www.kei-it.com/sailing/99-051031.html
「大手ソフト会社の『ソフトウェア』」参照)


ここで、読者は次のように考えるのではないでしょうか?
「NRIですら173億円のソフトウェア資産を持っているのだから、
世界最大のパッケージ会社であるマイクロソフトの貸借対照表には
莫大な金額のソフトウェア資産が存在するのだろう。」

ところが、実は、マイクロソフトの貸借対照表にはソフトウェアは
資産として計上されていないのです。



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  [ソフトウェア振替という麻薬] 負債を手に入れ、資産だと思いこむ
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> 資産は私のポケットにお金を入れてくれる
> 負債は私のポケットからお金をとっていく
> ( ロバート・キヨサキ著「金持ち父さん、貧乏父さん」 より)

MS WindowsやMS Officeはマイクロソフトのポケットに毎日、大金を
注ぎ込んでくれます。したがって、本当の資産です。

一方、日本のソフトウェア会社のソフトウェア資産は、毎年、
減価償却費として、会計上の利益を減らすだけでなく、その開発費に
使った借入れの返済として、毎月、自社の口座から現金を流出させます。
つまり、偽物の資産です。

本当の資産は資産として扱われず、偽物の資産が資産として扱われて
いるのです。

ここで、「金持ち父さん、貧乏父さん」 の次の言葉が頭をよぎります。

「金持ちは資産を手に入れる。中流以下の人たちは負債を手に入れ、
資産だと思いこむ。」



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  [ソフトウェア振替という麻薬] クリンジリーの言葉
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私は、マイクロソフトの貸借対照表を実際に見たわけではありません。
インターネットで探したら入手できるかもしれませんが、英文の
財務諸表は私も読みこなせません。

私が「マイクロソフトは自社のソフトウェアを資産として扱っていない」
と考える根拠は、ロバート・X・クリンジリー著「コンピュータ帝国の興亡」
中の次の記述です。

> コンピュータ会社は金の出入りの管理には積極的だが、一般的に
> 税金の計算にはきわめて保守的な態度をとる。
> たとえば、パーソナルコンピュータのソフトウェア会社のほとんどが、
> 自社のソフトウェアを減価償却しないのだ。
> 彼らは、ソフトウェアには資産価値がまったくないようなフリを
> するのである。
> IBMは帳簿上、ソフトウェアの減価償却費として20億ドル以上を
> 計上している。だがマイクロソフトは、MS-DOSにもほかの製品にも
> まったく減価償却費を計上していない。
> もしマイクロソフトがIBMのような方法で会計処理すれば、
> いまのままでいっさいの変更をせずに収入を倍増できるだろう。
> ウォール・ストリートがマイクロソフト株を愛している理由は、
> そこにある。


1992年に書かれた本ですが、ソフトウェアの減価償却に対する、
会社としての基本的な考え方に関するものなので、現在でも事情は
ほとんど変わらないでしょう。



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  [ソフトウェア振替という麻薬] 米国ソフト会社が減価償却しない理由
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では、何故、米国のソフトウェア会社はソフトウェアを減価償却
しないのでしょうか?

一つは税金面でメリットがないことが考えられます。

第99号( http://www.kei-it.com/sailing/99-051031.html 参照)で、
私は次のように書きました。

> ソフトウェア振替には非常に大きなメリットがあります。
> もしもこれが無ければ、パッケージの開発をした年度は大幅な赤字に
> なってしまいます。
> また、次の年度でパッケージが売れて大きな利益が出た場合は、
> 納税額も膨らんでしまいます。


しかし、これは、日本のソフトウェア会社の次のような事情を前提
とした話です。
・銀行からの借入れが多く、銀行からの評価を気にしなければならず、
 そのため、営業利益を赤字にできない。
・しかし、利益率が低いため、投資をするとすぐに営業利益が赤字に
 なってしまう。

そのため、経費を減価償却費として繰り延べせざるを得ないのです。

一方、とほうもない利益を上げているマイクロソフトは減価償却して
会計上の利益を増やしても、納税額が増えるだけで、何のメリットも
ないのでしょう。

また、自己資本で運営しているので、銀行の評価など気にする必要は
ありません。
巨額の投資によって、万が一、営業利益が赤字になったとしても、
将来儲かる根拠のある赤字なら困らないのです。



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  [ソフトウェア振替という麻薬] ソフトウェアの価値とは何か?
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しかし、「儲かっているから税金面でのメリットがない」という説明
だけでは、不十分です。

クリンジリーは「パーソナルコンピュータのソフトウェア会社の
ほとんどが、自社のソフトウェアを減価償却しない」と言っています。
「儲かっているソフトウェア会社は、自社のソフトウェアを減価償却
しない」と言っているわけではありません。

また、クリンジリーも言っているとおり、米国でもIBMのように、
ソフトウェアもやっているハードウェアメーカーは、ソフトウェアの
減価償却費を計上しています。

米国のソフトウェア会社が、それもPC系ソフトウェア会社に限って、
儲かっているか否かに関わらず、自社のソフトウェアを減価償却
しないのなら、このことはもっと本質的で重大な問題を含んでいる
のではないでしょうか?

「ソフトウェアの価値をどのように考えるのか」という問題を・・・。


次号以降で、「ソフトウェアの価値とは何か?」というテーマにまで
踏み込みます。



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  [ソフトウェア振替という麻薬] 次回以降の予告
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次号以降は次のようなテーマで書く予定です。

・ソフトウェアの価値とは何か?


次号は、11月21日発行予定です。

乞うご期待!!



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