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第131号  2006/6/12
  ▼  まえがき
  ▼  [永久運動の設計] ほとんどの会社で取締役会は機能していない
  ▼  [永久運動の設計] 業務執行取締役
  ▼  [永久運動の設計] 執行役員
  ▼  [永久運動の設計] ライブドアには業務執行取締役は存在しない
  ▼  [永久運動の設計] ライブドアでは取締役会は機能していなかった
  ▼  [永久運動の設計] 関連するバックナンバー
  ▼  次回以降の予告


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  まえがき
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蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

今週号では、取締役と取締役会について解説します。

「永久運動の設計」シリーズに分類します。

「永久運動の設計」シリーズを最初から読みたい方は、
http://www.kei-it.com/sailing/back_forever.html を参照してください。

バックナンバーはブログでも公開しています。
ブログ: http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/



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  [永久運動の設計] ほとんどの会社で取締役会は機能していない
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取締役会の機能は下記の二つです。

(1)監督機能:執行機関(代表取締役)を監督する。

(2)決定機能:会社の重要事項を決定する。
 尚、法律で定められている取締役会の主な専決事項は次の4つです。

 ・重要な財産の処分、譲り受け
 ・多額の借財
 ・重要な使用人の選任、解任
 ・重要な組織の設置、変更、廃止


しかし、大企業でも中小企業でも、取締役会が、執行機関(代表取締役・
業務執行取締役・執行役員)とは独立した立場で、上記機能を発揮する
ことは、ほとんどありません。
これは日本だけではなく欧米でも同様です。


> 経営者側の提案する議案の何もかもが、従順な取締役たちによって
> 当たり前のごとく承認される。
> 劇的な倒産を招いたエンロンの経営者たちが突出した事例である。
> 伝統ある有名企業ゼネラル・エレクトリックもまた御多分にもれない。
> 
>       (ジョン・K・ガルブレイス著「悪意なき欺瞞」より)


取締役会が機能しない最大の理由は、特に大企業の場合は、企業経営が
複雑で難しすぎるので、取締役会が経営陣を監督したり会社の重要な
問題を判断することが現実的に不可能だからです。



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  [永久運動の設計] 業務執行取締役
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取締役会が機能しない二番目の理由は、取締役会が執行機関を監督する
と言っても、実際には取締役会のメンバーが業務執行担当者となって
いる場合が多いからです。

業務執行を兼任する取締役を「業務執行取締役」と呼びます。

大企業でも業務執行取締役は多いですが、中小企業の場合は業務執行を
しない純然たる(本来の)取締役の方が、むしろ珍しいでしょう。

業務執行取締役は、従来は法律上の制度ではありませんでしたが、
新会社法では法律上の制度として認められています。

ここは誤解しやすいところなので強調しておきますが、旧会社法でも
新会社法でも取締役会そのものには執行機能はありません。
「業務執行取締役会」というものは、昔も今もあり得ないのです。
(従来の有限会社や新会社法での「ボードなき会社」では「業務執行
取締役会」はあり得ると言えなくもないのですが、この点については
説明を割愛します。)

「業務執行取締役」とは「取締役会」の一部ではなく、執行機関の
一部です。

肩書きが「取締役副社長」「専務取締役」「常務取締役」である
人たちは、明らかに業務執行取締役です。
しかし、肩書きが「取締役」でも実態としては業務執行取締役である
場合が多いです。



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  [永久運動の設計] 執行役員
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業務執行取締役と似た制度として、執行役員という制度があります。

執行役員は企業側が工夫して作り上げてきた自主的な制度であり、
従来は法律上の制度ではありませんでしたが、新会社法では「執行役」
という名称で明確に認められています。

執行役員制度が考え出された理由は、業務執行取締役という制度には
次のような弊害があると考えられるようになってきたからです。


> たとえば、「工業用地買収の件」の例で、取締役会から一任された
> 業務執行取締役が、候補地を探し出し、売主の内諾も得て、取締役会
> の承認決議を求める場合を考えてみましょう。
> この場合、業務執行取締役は「工業用地買収の件」の提案者ですから、
> 「ここまで来た以上、なんとかして認めてもらいたい」と思うのが
> 当然です。
> けれども、その立場は「その土地は会社が求める土地として本当に
> 妥当なのか」を「ボードの一員」として改めてクールに判断する
> 取締役の立場と必ずしも一致しません。
> そこで、用地買収の決定機能、監督機能を担当する取締役と、執行を
> 担当する執行役員とを最初から分けたらよいのでは、ということに
> なったのです。
> 
>            (中島茂氏著「取締役の法律知識」)


つまり、「監督する側とされる側とが同一人物なら、判断が甘くなる
から、取締役と執行担当者は別人であるべきだ」という主張です。
立場に着目した分離論と言えます。



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  [永久運動の設計] ライブドアには業務執行取締役は存在しない
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これに対し、能力に着目した分離論と呼べるものもあります。

「取締役に要求される能力と執行役員に要求される能力とは異質だから、
取締役と執行担当者とは別人であるべきだ」という主張です。


> プレイングマネージャーとマネージャーというのは、執行役員と
> 取締役の違いにもつながってくる。目の前に横たわっている仕事を
> 遂行する能力が高いということと、経営全体を総合的に判断する
> 能力というのは、イコールではない。自分の事業範囲しか見られない
> 人間は、取締役には決してなれない。
> わが社では、執行役員と取締役を明確に分けている。
> 執行役員には経験や実力に優れている人物を配置し、取締役には
> 参謀的な人間を入れている。しかも取締役は経験ではなく、ビジネス
> センスや発想が重視されるポジションだから、年齢もできれば
> 若い方がいい。
> 
>      (「堀江貴文のカンタン!儲かる会社のつくり方」より)


「わが社では、執行役員と取締役を明確に分けている」が本当だと
すれば、ライブドアには業務執行取締役は存在しないはずです。

そして、ライブドアの組織図を見てみると、確かに「取締役副社長」
「専務取締役」「常務取締役」などは存在しません。
( http://corp.livedoor.com/company/organization.html 参照)

証券取引法違反で起訴された宮内亮治氏や熊谷史人氏も単なる「取締役」
でした。

また、平松社長は、執行役員社長であり、代表取締役社長では
ありません。
そして、事業本部ごとに執行役員副社長がいます。



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  [永久運動の設計] ライブドア平松社長は取締役ではない
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取締役に要求される能力と執行役員に要求される能力とは異質である
という堀江氏の主張には、私も賛同します。

堀江氏の主張の中で、さらに私が面白いと感じた点は次の部分です。

・取締役には参謀的な人間が向いている。
・取締役は経験ではなく、ビジネスセンスや発想が重視される。

一般には、取締役会は監督機関なので、取締役は経験豊富でバランス
感覚のある人が適しているとされています。

しかし、堀江氏が持つ取締役のイメージは、斬新な発想で事業を
企画するアイデアマン、参謀、策士、策略家です。
逮捕前の宮内亮治氏のように・・・。

冒頭で、取締役会の機能には、監督機能と決定機能があると述べました。
法律家が描く取締役会像は監督機能が強調される傾向があるのに対し、
堀江氏の描く取締役会像は極端に積極的な決定機関です。
私はこれ自体は悪くないと思っています。むしろ評価しています。

それでは、ライブドアでは、取締役会は機能していたのでしょうか?

やはり、機能していなかったのです。
監督機能が全く存在していなかったのです。

宮内亮治氏や熊谷史人氏は、代表取締役である堀江氏も取締役としての
自分自身も監督することができませんでした。
ライブドア事件は、取締役会が機能しなかったが故に発生したという
点では、エンロン事件と同じなのです。



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  [永久運動の設計] 関連するバックナンバー
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第29号「会社法の主要な登場人物」
http://www.kei-it.com/sailing/29-040621.html

第32号「株式会社の基本形」 
http://www.kei-it.com/sailing/32-040712.html



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  次回以降の予告
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次号以降では次のようなテーマを取りげていきます。

技術系:
・グーグルの衝撃
 (本を読むこと、ネットで読むこと)
・OSS(オープンソースを持ち上げる人々、オープンソースの実態)
・Linux台頭とSUN
・メーカからの請負、エンドユーザからの請負
 (品質管理、検収、瑕疵担保責任の違い)
・オブジェクト指向再論
・PMBOK
・SEO対策

外国系:
・中国は脅威か?

法務系:
・コンプライアンス
・取締役と執行役員

労務系:
・雇用契約、裁量労働制、個人事業主
・景気回復、新卒の採用難、2007年問題

営業系:
・売れる営業マン


次号は、6月19日発行予定です。

乞うご期待!!



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  本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。

したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。

また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
「まぐまぐ!」での読者数は2006年6月10日現在、499名です。


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