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第31号  2004/07/05
  ▼  まえがき
  ▼  [永久運動の設計] 株式会社の設計者が考えたこと
  ▼  [永久運動の設計] 代表取締役は株主とも会社とも契約していない
  ▼  [永久運動の設計] 代表取締役は信任受託者
  ▼  [永久運動の設計] 忠実義務と注意義務
  ▼  [永久運動の設計] 委任に含まれる信任の要素
  ▼ 次回以降の予告

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  まえがき
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蒲生嘉達です。お疲れ様です。

本メルマガは、慶の社員(正社員・契約社員)及び慶と契約している
個人事業主の方々に配信しています。

感想をお持ちなら是非返信してください。


> SE・プログラマは町工場の金型職人と同様、人的資産ですが、
> より汎用的な(組織特殊的ではなく)人的資産です。
> 
> 次号ではソフトウェア会社における従業員について考察します。

先週号では上記のように予告しましたが、その前にもう一度会社法に
立ち戻ってみましょう。


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  [永久運動の設計] 株式会社の設計者が考えたこと
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株式会社を設計した人はおそらく次のようなことを考えたのでしょう。
(1)多くの株主から資金を集められる仕組みにしたい。
(2)その見返りとして株主に利益が還元されるような仕組みにしたい。
(3)しかし、株主に負債は負わせたくない。
(4)つまり、会社は株主にとっては、共同購入した鶏のようなもので、
 卵(配当)を生んでくれさえすればよい。鶏の飼育(経営)は経営者に
 任せる。
(5)そのために経営者は株主が選択する。

(6)会社資産・負債は株主のものでないと同時に、経営者のものにも
 したくない。なぜなら、もしもそうしたら、
 ・経営者が変わるたびに会社資産の相続問題が起きてしまう。
 ・巨額の負債を経営者個人が負えるものではない。

(7)したがって、会社資産・負債の持ち主は「法人」という「生物
 としては存在しないが法律上は存在する人」にしたい。

このようにして、株主が法人を所有し、法人が会社資産を所有する
という二重構造ができたのです。

株主と法人の二つの起点があり、それによって下記の二つの流れが
あるというところが会社法の面白いところです。
・株主→取締役会→代表取締役
・法人→代表取締役→取締役・従業員・会社資産 



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  [永久運動の設計] 代表取締役は株主とも会社とも契約していない
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第29号では、株主と代表取締役との間に委任契約はないことを解説し、
さらに「代表取締役はSUPER-KEIという法人に信任されて、法人の
利益のために仕事をしているのです」と書きました。
いきなり「信任」という言葉が出てきたので分からなかったと思います。

実は株主との間だけでなく、会社と代表取締役との間にも委任契約は
ないのです。

会社と取締役との間には委任契約があります。
通常は委任状を作りませんが、例えば次のように作ることができます。

「株式会社SUPER-KEIは山田一郎に下記事項を委任しました。
 委任内容:株式会社SUPER-KEIの取締役
      株式会社SUPER-KEI 代表取締役 慶太郎」

しかし、下記の委任状には意味がありません。

「株式会社SUPER-KEIは慶太郎に下記事項を委任しました。
 委任内容:株式会社SUPER-KEIの代表取締役
      株式会社SUPER-KEI 代表取締役 慶太郎」

EXCELの循環参照のようなもので、「この委任状で慶太郎に
代表取締役を委任した『代表取締役 慶太郎』はいったい誰に
委任されたのか」という循環が永遠に発生してしまうからです。

選任の手続きは「株主→取締役会→代表取締役」ですから、本来
なら株主総会か取締役会が委任する主体となるのが自然です。
しかし、そうすると株主や取締役会が会社資産・負債の持ち主に
なってしまいます。
それは株式会社の設計者が求めるものではありませんでした。


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  [永久運動の設計] 代表取締役は信任受託者
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上記例で慶太郎が株主ともSUPER-KEIとも契約していないとすると、
慶太郎が代表取締役として振舞える理由は何なのでしょうか?

株式会社の設計者は「生物としては存在しないが法律上は存在する人」
を会社資産の所有者としたかったのですが、「生物として存在しない
人」は契約書に署名できません。したがって、契約の主体たり得ません。

しかし、世の中には「契約はできないが、生物的にも法律的にも
存在する人」はいます。
例えば、未成年者や精神障害者や痴呆老人などです。
このような人達の社会的な行為(例えば財産管理)などは「信任」
された後見人が行います。

> 重要なことは、信任とは契約とは異質の概念であるということです。
> たとえば無意識の状態で運ばれてきた患者を手術する医者を考えて
> みましょう。この患者は自分で医者と契約をむすべません。
> だがそれにもかかわらず、救急病棟に詰めている医者は、まさに
> 医者であることによって、患者のために手術を行います。
>      (岩井克人「会社はこれからどうなるのか」より)


慶太郎が代表取締役として振舞える理由は、慶太郎が「私が
SUPER-KEIの信任受託者である」と言い、それを社会が認めたからです。


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  [永久運動の設計] 忠実義務と注意義務
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慶太郎が「私はSUPER-KEIから信任され、会社の経営を任された」と
言った瞬間に、慶太郎には下記の義務が生じます。

忠実義務:自己の利益ではなく、信任関係の相手の利益にのみ忠実に
     仕事を行うこと

注意義務:それぞれの立場に要求される通常の注意を払って仕事を
     行うこと

また、慶太郎は信任されたつもりになっていますが、実際には
SUPER-KEIの利益にならないことをしているかもしれません。
そのために株式会社の設計者は下記の仕組みを用意しました。

・株主代表訴訟
・取締役会による監督
・監査役による監督

これらの仕組みは、代表取締役に「貴方は会社から信任されていない」
「貴方は信任受託者としての義務を果たしていない」と宣告する
仕組みなのです。



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  [永久運動の設計] 委任に含まれる信任の要素
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上述のとおり、無意識の状態で運ばれてきた患者と手術する医者との
関係は「信任」です。
一方、意識のある患者の同意を得て医者が手術する場合は、患者
と医者との関係は「委任契約」です。

しかし、患者は素人で医者は専門家です。
いくら医者が丁寧に説明しても、また、患者の同意を得たとしても
患者としては医者を信頼して任せているのです。

> 一般に、形式的には契約関係であっても、当事者の間で知識や能力に
> 大きな格差があるかぎり、そこでは信頼によって一定の仕事を任せる
> という要素が必然的に入り込んでくるのです。
>      (岩井克人「会社はこれからどうなるのか」より)

そして、そこでは信任と同じように、「忠実義務」と「注意義務」が
生じるのです。

例えば、会社と取締役との契約は委任です。
取締役との委任契約の主な内容は、下記のとおりです。

(1)取締役会のメンバーとして
・代表取締役の選任・解任
・重要な財産の処分
・業務執行の決定
・業務執行の監督
(2)業務担当取締役としての業務執行

取締役は、会社から経営の専門家として信頼され、自由裁量を
認められ、上記を任されているのですから忠実義務と注意義務を
もって上記行為を行わなければなりません。

また、「ソフトウェア業界 航海術」で、技術者の常駐作業は
「労働者派遣」ではなく「準委任」であることを説明しました。
準委任契約は派遣契約よりも自由裁量が認められた契約です。
任せるほうと引き受けるほうとの信頼関係が基礎となっている
契約です。ここでも同様に忠実義務と注意義務が生じます。



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  次回以降の予告
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「代表取締役は株主とも会社とも契約していない」「代表取締役は
信任受託者」などは、一般の会社法の本に書かれていることは違います。

しかし、このように考えると株式会社というものが鮮明に立体的に
見えてきます。


次号は、7月12日発行予定です。乞うご期待!!



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発行:
株式会社 慶
 代表取締役  蒲生 嘉達
y_gamou@kei-ha.co.jp http://www.kei-ha.co.jp
TEL:03-5951-8490  携帯:090-1258-6347


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