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第63号  2005/02/21
  ▼  まえがき
  ▼  [保存できないエディタ] 途中放棄の米国、品質低下の日本
  ▼  [保存できないエディタ] 第57号の設問対象が市販ソフトだったら
  ▼  [保存できないエディタ] 顧客の満足の気まぐれさ
  ▼  [保存できないエディタ] 次回以降の予告


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  まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。

第57号から「まぐまぐ!」での読者数が急に増えてきました。
第56号までは200名だったのに、今では310名です。
読者も「日本のソフトウェア請負開発は何かおかしい」という思いを
お持ちなのだと思います。


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  [保存できないエディタ] 途中放棄の米国、品質低下の日本
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第62号では「日本より米国の方がソフトウェア開発プロジェクトが
破綻するケースが多い」という前川徹氏の指摘を紹介しましたが、
保田勝通著「ソフトウェア品質管理の考え方と実際」(1995年日科技連
発行)の中でも次のような記述を見つけました。

> 米国でのいくつかの調査によれば、クライアント/サーバシステム
> 開発において55%が予算オーバー、68%が納期遅延であり、また
> 35%〜50%が途中放棄されたという報告もある。

この数字は日経コンピュータ1995年2月6日号の「失敗相次ぐ大規模
開発 プロジェクト管理の徹底が急務」(ロシェル・ガーナー)という
記事を基にしています。
古いデータですが、予算オーバーと途中放棄の多さに驚きます。

読者の中で、同様なテーマでの米国の最新のデータをお持ちの方が
いらっしゃったら教えてください。

一方、日本ではプロジェクトの失敗で問題となる順番は、1.品質不良、
2.納期遅延、3.予算オーバーです。途中放棄はあまり聞きません。

例えば、日経コンピュータ2003年11月17日号「プロジェクト成功率は
26.7% 2003年情報化実態調査」という記事に1万2546社に対する
アンケート結果(回答企業1746件)が載っていました。
( http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NC/TOKU1/20031111/1/ 参照)
そこでは、回答企業の76.2%がコスト面では満足しています。
ちなみに納期についての満足率は54.9%、品質については46.4%です。


これらの数字は第62号での次の説を裏付けています。

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米国の請負開発では、設計承認のリスクをユーザが負うという
ウォータフォール開発プロセスの原則が守られているが故に、
予算超過のリスクの多くをユーザが負います。
そのため、予算を上積みしてもうまくいかなかったら、ユーザは
開発自体を途中放棄してしまいます。
一方、日本では請負業者が予算超過のリスクを負います。そのため
ユーザ側の開発予算は超過しません。しかし、品質が低下します。



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  [保存できないエディタ] 第57号の設問対象が市販ソフトだったら
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現在の日本では、小規模請負開発の多くは漸増的開発プロセスで行わ
れています。
したがって、漸増的開発プロセスでの請負開発について話を進めたい
のですが、その前に市販ソフトウェア開発について解説します。
ウォータフォール開発プロセスが請負契約と密接な関係があるのに対し、
漸増的開発プロセスは市販ソフトウェア開発と密接な関係があるからです。


第60号では、市販ソフトウェアの保証には、「明示的な保証」と
「黙示の保証」とがあることを説明しました。
また、ほとんどの企業は商品の保証規定の中で、黙示の保証の放棄を
宣言していることも説明しました。
黙示の保証は現実には保証範囲の線引きが難しく、これを広く解釈
すれば、企業は莫大な損害賠償を要求される可能性があります。
したがって、米国の裁判所も良心的な黙示の保証の放棄は認めています。

しかし、黙示の保証の放棄が認められるのは法律の世界での話しです。
経済の世界では違います。

第57号の設問で製品が市販ソフトウェアだった場合を考えてください。
そしも、ある商品にユーザが「あって当たり前」と思っている機能が
なければ、ユーザはそのような商品に見向きもしません。
商品は売れず、開発会社は開発費をドブに捨てることになります。

また、知らずに買った人は様々な手段を通じて、メーカに対して
クレームをあげ、インターネットなどでも批判的な情報発信をする
でしょう。
開発会社が「販売用パンフレットやユーザマニュアルには『保存機能
がある』とは買いていません」と言っても、何の役にも立ちません。
さらにユーザの怒りを買うだけです。

その商品が売れないだけでなく、ブランドイメージも傷つくので、
その企業の他の商品にも影響が及びます。

したがって、開発会社は次のどちらかの選択を迫られることになります。
・開発費をドブに捨て、商品を回収し、撤退する。
・予算を追加し、機能追加し、既存ユーザには無償バージョンアップする。



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  [保存できないエディタ] 顧客の満足の気まぐれさ
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第57号での無償追加派の下記の主張は、市販ソフトウェアの世界では
完全に正しいことです。

> ソフトウェアの品質というものは顧客の満足度であって、仕様に
> 合っていることではありません。
> ソフトウェアのバグとは、「仕様に合っていないこと」ではなく
> 「エンドユーザが期待しているような動作をしないこと」なのです。


しかし、顧客の満足度を目標にするなら、我々はその多様性、相対性、
曖昧さ、気まぐれさとも付き合わなければならないのです。

> 品質は誰かにとっての価値である。(ワインバーグ)

> 顧客満足度は我々のゴールである。しかし、顧客の視点は毎月
> でも変わりうる。(PRAXIS社マーチン・トマス氏)



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  [保存できないエディタ] 次回以降の予告
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次回以降では次のようなことを順次解説していきます。

・市販ソフトウェア開発に見る漸増的開発プロセスの基本形。
・漸増的開発プロセスと市販ソフトウェア開発との密接な関係。
・請負開発を漸増的に行うためにはどうすればよいか。

・契約には違反していないが、製品として欠陥がある場合(第57号
 での例のような場合)の考え方。


次号は、2月28日発行予定です。

乞うご期待!!



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