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第212号  2008/10/23 [会社の心臓]

血液が回りさえすれば

 


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第212号  2008/10/23 『血液が回りさえすれば』
  ▼  まえがき
  ▼  [会社の心臓] (1)事実を基にしたフィクションとして
  ▼  [会社の心臓] (2)巨額の借入
  ▼  [会社の心臓] (3)売掛と買掛の差はチープにならない
  ▼  [会社の心臓] (4)仕掛品が異常に大きい
  ▼  [会社の心臓] (5)今年破綻した理由
  ▼  [会社の心臓] (6)血液が回りさえすれば
  ▼  [会社の心臓] (7)技術、営業、そしてきちんとした資金計画
  ▼  [会社の心臓] (8)関連記事


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  まえがき
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蒲生嘉達(がもうよしさと)です。

最近、慶の取引先(以降A社と呼びます)が民事再生法の適用をうけました。

我々にとっても教訓となるので、本日はこのことについてお話しします。



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[会社の心臓] (1)事実を基にしたフィクションとして
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A社は資本金約1億円、年商約30億円の大きな会社です。
コンピュータ周辺機器の開発・販売、組み込みシステムの開発・販売を
得意としてきました。

慶にもA社に対する売掛金があったので、債権者説明会に私も出席
しました。

そこで配布された資料に過去3年間の貸借対照表、損益計算書の抜粋が
記載されていました。

多少なりとも会計の基礎知識があると、このような資料が面白く読めます。


「図212-1 2008年3月末時点の貸借対照表」
( http://www.kei-it.com/sailing/2008/212-1.htm )は極端に
簡略化した2008年3月末時点(2007年度決算)のA社の貸借対照表です。
分かりやすくするため、数字もかなり変えているので、「事実を
基にしたフィクション」としてご覧ください。単位は億円です。



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[会社の心臓] (2)巨額の借入
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まず、借入の多さが目を引きます。

短期借入金が10億、長期借入金が6億、借入金の合計が16億。
社債8億を含めると合計で約24億の資金調達が行われています。

A社の年商は30億円です。

金融機関から融資を受ける場合、一般には「借入は月商の3倍以内」
という非常に大雑把な目安があります。
この目安からするとA社の借入の限度額は7.5億程度です。

何故、A社は24億円もの資金調達が必要だったのでしょうか?



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[会社の心臓] (3)売掛と買掛の差はチープにならない
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請負会社が借入を必要とする最大の理由は、「売掛金」と「買掛金」
の差額です。
(拙著「ソフト会社の心臓 第3部4-1運転資金」参照)
 http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4779002958/keiitteanifty-22

 関連記事:第149号「売掛と買掛の差額はチープにならない」
 [HP] http://www.kei-it.com/sailing/149-061016.html
 [Blog] http://www.gamou.jp/sailing/2006/10/post_393d.html


「図212-1 2008年3月末時点の貸借対照表」での売掛金は14億円、
買掛金が5億円、その差額は9億円です。

けっして小さな数字ではありませんが、それだけでは約24億もの
資金調達を必要とした理由としては不十分です。



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[会社の心臓] (4)仕掛品が異常に大きい
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「図212-1 2008年3月末時点の貸借対照表」をもう一度見ると
「仕掛品」が異常に大きいことに気づきます。8億円もあります。

「仕掛品とは何か」については、「ソフト会社の心臓 第4部1仕掛品」
を参照してください。


A社の主な得意先は公官庁、または、公官庁をエンドユーザとする
メーカーです。

公官庁相手の大型案件の特徴は、納品と支払が毎年、年度末の
前後2ヶ月(2月から5月)に集中するという点です。
その他の時期はひたすら売掛金と仕掛品が増大していくのです。

「図212-1 2008年3月末時点の貸借対照表」は、3月末時点、つまり、
売掛金と仕掛品が比較的少ない時期の財務状況を表しています。

民事再生手続を申立てした9月末時点では、売掛金と仕掛品がさらに
膨らみ、現金が枯渇する一方で、短期借入金がさらに膨らんでいたで
あろうことが想像できます。



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[会社の心臓] (5)今年破綻した理由
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債権者説明会で配布された資料には2005年度、2006年度の貸借対照表、
損益計算書の抜粋も記載されていました。

それらも「巨額の売掛・仕掛品、それに対応した巨額の融資・社債」
という体質は同じでした。

それでもA社は回っていました。
特に2006年度には過去最高の売上、利益を記録しています。

何故今年、破綻したのでしょうか?

その理由は次のとおりです。

・ターゲットとする業界の不況による業績悪化。
・不況のため、銀行としても融資に慎重になっている。
・実際には現金化できない仕掛品、現金化できない売掛金を計上していた。
・社債の償還時期と重なった。



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[会社の心臓] (6)血液が回りさえすれば
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私にはA社のつらさも分かります。

しかし、今回の破綻で弊社も被害を受けました。

A社の破綻はA社の従業員を不幸にするのみならず、取引先企業、
さらには取引先の従業員にも被害が及びます。


A社には優秀な技術者と有能な営業マンがいました。

お金という血液が回りさえすれば成功できる会社だったのです。

拙著「ソフト会社の心臓」で私は「経営者は常に貸借対照表の鼓動に
耳を傾けなければならない」と書きました。

鼓動に耳を傾けていれば、例え経営不振に陥ったとしても、民事再生
というハードランディングに至る前に何らかのソフトランディングが
可能だったのではないでしょうか?



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[会社の心臓] (7)技術、営業、そしてきちんとした資金計画
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第211号「本格的な冬の時代に突入する前に」ではソフト会社内の
構造改革の必要性を述べました。

 第211号『本格的な冬の時代に突入する前に』
 [HP] http://www.kei-it.com/sailing/211-080923.html
 [Blog] http://www.gamou.jp/sailing/2008/09/post-bc17.html


技術、営業、そしてきちんとした資金計画で構造改革を成し遂げましょう!



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[会社の心臓] (8)関連記事
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倒産したベンチャーの貸借対照表
[HP] http://www.kei-it.com/sailing/100-051107.html
[Blog] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2005/11/bs_2c30.html


電車に飛び込む人が後をたたない理由
[HP] http://www.kei-it.com/sailing/113-060206.html
[Blog] http://kei-it.tea-nifty.com/sailing/2006/02/post_0b95.html



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