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_/_/_/_/_/_/_/ ソフトウェア業界 新航海術 _/_/_/_/_/_/_/_/_/
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第80号 2005/06/20
▼ まえがき
▼ [保存できないエディタ] 日経コンピュータ6/13号の問題記事
▼ [保存できないエディタ] 過失がなくても損害賠償や契約解除?
▼ [保存できないエディタ] 無過失責任とそれを限定する特約
▼ [保存できないエディタ] 乙の責に帰すべきものでない瑕疵
▼ [保存できないエディタ] 救済手段は「瑕疵の無償補修」が原則
▼ [保存できないエディタ] 問題の記事のその他の問題点
▼ 次回以降の予告
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まえがき
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こんにちは、蒲生嘉達(がもう よしさと)です。
「保存できないエディタ」シリーズをスタートした第57号から
「まぐまぐ!」での読者数が急に増えてきました。
シリーズ開始前は約200名だったのに、今では390名です。
読者も「日本のソフトウェア請負開発は何かおかしい!」という思いを
お持ちなのだと思います。
「保存できないエディタ」シリーズをまとめて読みたい方は下記URLを
参照してください。
http://www.kei-it.com/sailing/back_editor.html
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[保存できないエディタ] 日経コンピュータ6/13号の問題記事
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日経コンピュータ6月13日号に、「【困ったときの法律相談室】
請負か準委任契約か、条項ごと“寄せ”を意識」という記事が載って
いました。( http://store.nikkeibp.co.jp/mokuji/nc628.html 参照)
内田・鮫島法律事務所に所属している弁護士がお書きになった記事です。
後述のとおり問題の多い記事ですが、ソフトウェア請負開発での
瑕疵担保責任について考える材料となるので、今回取り上げます。
下は日経コンピュータの上記記事からの引用です。
> 請負契約では原則、ベンダーに瑕疵担保責任がある。
> ユーザは瑕疵を見つけたら、民法634条以下の規定によって、ベンダー
> に対して責任を追及し、損害賠償や契約の解除を求めることができる。
> ベンダーに過失がなくても、である。
これを読んで読者は違和感を感じないでしょうか?
顧客とソフトウェア会社との間で締結される請負開発基本契約書では、
瑕疵担保責任は通常、下記のように記述されます。
「甲」は顧客、「乙」はソフトウェア会社です。
> 個別契約で定める保証期間内に乙の責めに帰すべき理由により生じた
> 隠れたる瑕疵が発見されて、同期間内に乙に対して通知があった場合、
> 乙は無償で補修を行います。
> この場合の甲に対する救済手段は瑕疵の無償補修に限られます。
> (山崎 陽久著「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」
> http://www.5291soft.com/7-2-1.htm より)
> プログラムの検収後、瑕疵が発見された場合、甲及び乙はその原因に
> ついて協議・調査を行うものとする。協議・調査の結果、当該瑕疵が
> 乙の責に帰すべきものであると認められた場合、乙は無償で補修・
> 追完を行うものとし、乙の責に帰すべきものでないと認められた場合
> には、甲は協議・調査によって乙に生じた費用を乙に支払うものとする。
> (「JISAソフトウェア開発委託モデル契約書」
> 「ソフトウェア開発委託契約の契約と実務」より)
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[保存できないエディタ] 過失がなくても損害賠償や契約解除?
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上記の基本契約書の規定と日経コンピュータの記事とでは、下記の点で
大きな違いがあります。
(1)乙の責に帰すべきでない瑕疵の扱い
「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」や
「JISAソフトウェア開発委託モデル契約書」では、瑕疵担保責任は
「乙の責に帰すべきものであると認められた場合」に限定されています。
それに対し、日経コンピュータの記事では、「ベンダーに過失がなくとも
瑕疵担保責任を追求できる」と主張しています。
(2)救済手段
「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」や
「JISAソフトウェア開発委託モデル契約書」では、瑕疵担保責任の
救済手段は「瑕疵の無償補修」です。
それに対し、日経コンピュータの記事では、「損害賠償や契約の解除」
です。
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[保存できないエディタ] 無過失責任とそれを限定する特約
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私はもう一度「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」や
「ソフトウェア開発委託契約の契約と実務」で瑕疵担保責任について
書かれている部分を読み直してみました。
その結果分かったことを記します。
まず、乙の責に帰すべきでない瑕疵の扱いについてです。
請負契約における瑕疵担保責任の一般論としては、日経コンピュータの
記事は正しいです。
> 取引の目的物に瑕疵があった場合、その目的物の提供者は無過失責任
> を負う。すなわち、過失の有無にかかわらず瑕疵が存在したということ
> だけで責任を負わなければならない。
> (「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」より)
「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」や
「JISAソフトウェア開発委託モデル契約書」で、瑕疵担保責任を
乙の責に帰すべきものであると認められた場合のみに限定しているのは
顧客とソフトウェア会社間で決めた特約なのです。
それでは、何故そのような特約を付けているのでしょうか?
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[保存できないエディタ] 乙の責に帰すべきものでない瑕疵
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その前に、「乙の責に帰すべきものでない瑕疵」とはどのような
ものでしょうか?
例えば下記のようなものが考えられます。
・使用したOS、ミドルウェア、パッケージソフトにバグがあった。
バグと言えないまでも相性が悪かった。
そして製品選定時点では、それを予見できなかった。
・顧客が提供した情報に誤りがあったことが原因で発生した瑕疵。
・顧客が必要な情報を提供しなかったことが原因で発生した瑕疵。
・顧客の指図が誤っていたために発生した瑕疵。
ソフトウェア請負開発では、他の製造物の請負開発よりも上記のような
ことが発生しやすく、無過失責任の原則をそのまま適用すると、
受託側にとってあまりにも過酷なものになります。
そのため、基本契約で、瑕疵担保責任を「乙の責に帰すべきもので
あると認められた場合」に限定する特約を入れているのです。
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[保存できないエディタ] 救済手段は「瑕疵の無償補修」が原則
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次に救済手段について見てみましょう。
> 請負人であるソフトウエア会社は、まず瑕疵修補責任と損害賠償責任
> を負う。
> すなわち注文者であるユーザーは、瑕疵について相当の修補期間を
> 定めて修補請求ができる(民法634条1項)。ただし、瑕疵が重要
> でない場合で、その修補に過分の費用がかかる場合は修補請求ができず、
> 損害賠償請求しかできない(民法634条1項但書)。
> また、ユーザーは修補請求に代えて損害賠償の請求をすることもできるし、
> 修補請求と共に損害賠償請求も合わせてできる(民法634条2項)。
>
> また、瑕疵によって契約をなした目的を達することができないときは、
> ユーザーは契約の解除をすることができ、合わせて損害賠償の請求も
> できる(民法635条)。
>
> (「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」より)
救済手段として、修補、損害賠償、契約解除の3つが認められています。
しかし、日経コンピュータの記事では、損害賠償、契約解除のみ
示されています。
修補が十分に可能な場合でも、ユーザーは損害賠償請求または契約解除が
できるかのように読み取れます。
しかし、これはソフトウェア業界の常識からはかけ離れています。
ソフトウェア業界の常識では、救済手段は「瑕疵の無償補修」が原則です。
プログラムは他の物理的な製造物よりもはるかに隠れたる瑕疵が発生
しやすいのです。
したがって、基本契約で救済手段を「瑕疵の無償補修」を原則とする
特約を入れるのです。
日経コンピュータの記事は、プログラムが他の物理的な製造物よりも
はるかに隠れたる瑕疵が発生しやすいという認識がない法律家が書いた
記事です。
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[保存できないエディタ] 問題の記事のその他の問題点
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この記事には他にも多くの問題点があります。
例えば、「準委任契約では、ベンダーに瑕疵担保責任はない」と
断定しています。
一方、「ソフトウェア開発・利用契約と契約文例事例集」では
準委任契約でも瑕疵担保責任はあると書かれています。
また、「派遣契約で来た人材に対して成果物の責任を負わせる
『偽装請負』という行為」という記述もあります。
通常は、実態は派遣なのに契約は請負であることを「偽装請負」と
言うはずです。
(第53号 http://www.kei-it.com/sailing/53-041213.html 参照)
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次回以降の予告
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次回以降は引き続き下記の項目について書いていきます。
・保存できないエディタシリーズのまとめ
・横受け型アウトソーシング
・見積もりが難しいテスト工程をアウトソーシングする方法
・ソフトウェア工場よりもテストセンターの方が実現しやすい。
・テストのアウトソーシングと漸増型開発プロセス
次号は、6月27日発行予定です。
乞うご期待!!
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本メルマガについて
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本メルマガは2003年12月8日に創刊されました。
創刊号 http://www.kei-it.com/sailing/01-031208.html で述べたとおり、
本メルマガのコンセプトは「読みものとしても面白い慶の事業計画」であり、
目的は「事業計画の背後にある基本的な考え方を語ること」です。
したがって、第一の読者としては、慶の社員(正社員・契約社員)及び
慶と契約している個人事業主を想定しています。
彼らには慶社内のメーリングリストで配信しています。
また、多くのソフトウェア会社・技術者が直面している問題を扱っているので、
ソフトウェア会社の経営者、管理者、技術者にとっても参考になると思い、
第33号(2004年7月19日号)からは「まぐまぐ!」で一般の方々にも公開する
ことにしました。
本メルマガの内容に興味を持つであろう方をご存知なら、是非
本メルマガの存在を教えてあげてください。
(以下をそのまま転送するだけです。)
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