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第228号  2010/5/5 [技術動向]

プライベートクラウド vs. パブリッククラウド

 

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第228号  2010/05/05 『プライベートクラウド vs. パブリッククラウド』
  ▼  まえがき
  ▼  [技術動向] (1)プライベートクラウドの利点
  ▼  [技術動向] (2)パブリッククラウドの方が安全(?)
  ▼  [技術動向] (3)パブリッククラウドの問題点
  ▼  [技術動向] (4)日本に残された唯一
  ▼  [技術動向] (5)プライベートクラウドはクラウドか論争
  ▼  [技術動向] (6)プライベートクラウドの弱点
  ▼  [技術動向] (7)パブリッククラウドとの競争による価格破壊が進む
  ▼  あとがき:慶の取り組み


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  まえがき
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株式会社慶の蒲生です。

本日はプライベートクラウドについて話します。

クラウド及びプライベートクラウドとは何かについては下記の記事を
参照してください。

 [新航海術の補足ブログ]クラウドについての基礎知識
 http://www.gamou.jp/comment/2010/03/post-f0cc.html


尚、上記記事で「典型的なクラウド」と呼んだ「クラウド」を、
今回は「パブリッククラウド」と呼んでいます。



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[技術動向] (1)プライベートクラウドの利点
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IBM、富士通などの大手コンピュータメーカーはプライベートクラウドの
販売に力を入れています。
また、大企業もプライベートクラウドで固めたがっています。

プライベートクラウドの利点として一般に言われていることは次の二つです。

・企業グループの連結決算に向いている。
・セキュリティが確保できる。

私は連結決算についての知識は乏しいので、セキュリティについてのみ
話します。



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[技術動向] (2)パブリッククラウドの方が安全(?)
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プライベートクラウドに懐疑的な人は、
「過去にクレジットカードデータなどの個人情報漏えいが発生したのは
全て一般企業の自社システムからである。Google、Amazonでそのような
情報漏えいが発生したことはない。したがって、むしろパブリック
クラウドの方が安全である」と主張します。

また、「企業の不祥事がマスメディアで報道される場合、その情報源は
その企業のサーバー管理者であることが多い」(岸博幸著「ネット
帝国主義と日本の敗北」より)という指摘もあり、パブリッククラウド
の方が安全という主張にも一理あります。



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[技術動向] (3)パブリッククラウドの問題点
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しかし、パブリッククラウドは自分で制御できないブラックボックスです。

確かに現時点では情報漏えいの例がないとしても、将来何が起きるかは
分かりませんし、パブリッククラウドは囲い込みがきついので、
何か起きたときには後戻りができなくなっています。

先の「企業の不祥事がマスメディアで報道される場合、その情報源は
その企業のサーバー管理者であることが多い」という引用も、実は、
「だからサーバー管理者を米国企業に任せるのは危険」という文脈の
中の一文です。


岸博幸氏は「ネット帝国主義と日本の敗北」
( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/434498157X/keiitteanifty-22 )
の中で、米国による情報支配の危険性を説き、次のように指摘しています。

「日本は、行政や民間、更にはネット評論家の類いの人も含め、
クラウド・コンピューティング・サービスをあまりに無邪気に受け入れ
過ぎているように思います。」

詳細は、下記記事を参照してください。

 [新航海術の補足ブログ]「ネット帝国主義と日本の敗北」からの引用
 http://www.gamou.jp/comment/2010/05/post-d71f.html



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[技術動向] (4)日本に残された唯一
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「米国のネット企業のプラットフォーム・サービスをまったく利用
しないことは無理ですが、競争力のある同様のサービスや手段を国内に
持つことは、競争の観点のみならず安全保障の観点からも重要なのです。」
(岸博幸著「ネット帝国主義と日本の敗北」より)

パブリッククラウドベンダーを国内で育成することが理想ですが、
それができないなら、官公庁や大企業単位のプライベートクラウド
によって情報の安全保障をするのが、日本に残された唯一の道だと
私は思います。



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[技術動向] (5)プライベートクラウドはクラウドか論争
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次にプライベートクラウドの問題点について考えてみましょう。

下記は米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards
 and Technology, NIST)によるクラウドコンピューティングの定義です。

(1)On-demand self-service
 ユーザー側から自動的に、必要な機能のプロビジョニングが可能である
(2)Broad network access
 さまざまなクライアントから標準的なネットワークプロトコルで利用できる
(3)Resource pooling
 コンピュータ資源が、マルチテナントモデルでプールされ、複数の
 ユーザーに提供可能である。ユーザーは資源の物理的な位置に関知しない
(4)Rapid elasticity
 提供される機能が、迅速に、弾力的にプロビジョニングできる
(5)Measured Service
 メータリング機能を使って、計算機資源の利用状態をコントロールしたり
 最適化したりできる

(「企業システムにおけるクラウドコンピューティング」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20100414/347059/?ST=keyword より)


プライベートクラウドを推進する側の人は、上記定義を引き合いに出して、
「だから、プライベートクラウドもクラウドだ」と言います。

しかし、この定義には、パブリッククラウドの最も重要な利点である
「従量課金性」が含まれていません。
従量課金性をクラウドの特質と考える人は、「プライベートクラウドは
クラウドではない」と言います。



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[技術動向] (6)プライベートクラウドの弱点
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企業がベンダーと結ぶ契約は、パブリッククラウドの場合は従量制で
解約可能なサービス契約なのに対し、プライベートクラウドの場合は
リース契約、または、売買契約です。

リース契約の場合、期間も金額も固定で事実上解約不可能な債務が
発生します。
売買契約の場合も大概は金融機関からの借り入れで賄われるので、
やはり期間も金額も固定の解約不可能な債務が発生します。

プライベートクラウドの弱点はここにあります。

・需要が減っても債務は減らない。
・パブリッククラウドの場合は常にそのときの最新ハード・ソフトが
 使用できるが、プライベートクラウドの場合は最初は最新であっても
 すぐに時代遅れになる。
・自社物件だけではスケールメリットにおいてパブリッククラウドに
 かなわない。



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[技術動向] (7)パブリッククラウドとの競争による価格破壊が進む
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但し、レンタルがリースや所有よりも常に安上がりだとは限りません。
使用形態、使用頻度、使用期間次第です。

また、パブリッククラウドは囲い込みがきついので、通常の物品の
レンタルと異なり、実際には「解約」は難しいです。

Google App Engineでシステムを作った企業が他のPaaSベンダーに
乗り換えようとしたら、プログラムを全面的に書きかえる必要があります。
Force.comの場合は販売チャネルとセットなので、事実上解約不可能です。

また、上述のとおり、情報の安全保障という点では、パブリッククラウド
は結局は高くつくかもしれないのです。


これらの点を考慮しても、変化が激しいITの世界で、プライベートクラウド
という固定的な資産(あるいは債務)を抱えることは、企業にとっては、
大きなリスクを伴うことになります。
また、スケールメリットという点ではパブリッククラウドにはかないません。


したがって、プライベートクラウドを導入する企業は、パブリッククラウド
の価格を意識して価格交渉をしてくるでしょう。

それ故に、ハードもソフトもパブリッククラウドベンダーとの競争による
価格破壊が進むでしょう。



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あとがき:慶の取り組み
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現在、慶は、自社サービスとしてSaaSの開発を検討しています。

今後、研究成果を情報発信していきます。




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